いきなり質問です。屋根の瓦がはがれ始めるのは、風速どのくらいからだと思いますか。
気象庁が公開している「風の強さと吹き方」という表に、その目安が書かれています。答えは平均風速15m/sあたりから。時速に直すと50〜70kmほどで、この強さになると「屋根瓦・屋根葺材がはがれるものがある」とされています。さらに20m/sを超えると、はがれるどころか「飛散するものがある」。
思ったより低い、と感じませんか。台風のニュースで「最大風速30m」と聞くことを思えば、瓦が飛ぶ風は決してめずらしい風ではないわけです。しかもこの数字は10分間の平均風速で、瞬間的にはその1.5倍ほど、大気の状態が不安定なときは3倍以上になることもある、と同じ表に注記されています。
さて、ここからが今日の本題です。誰も住んでいない実家の瓦が飛んで、隣の家の車に当たってしまった。この修理代は、誰が払うことになるのでしょうか。
「台風のせいだから仕方ない」で終わるとは限らない
台風は自然災害です。人が起こしたものではないのだから、飛んだ瓦の責任まで問われるのは理不尽——そう感じるのが自然だと思います。
ところが、この手の話で見られるのは風の強さより、家の状態のほうなんです。
種を明かすと、根っこにあるのは民法の「工作物責任」と呼ばれる仕組みです。建物や塀のような土地の工作物について、設置または保存に「瑕疵(かし)」——つくりや手入れに不備があったこと——があり、それによって他人に損害が生じたときは、その工作物の側が賠償の責任を負う。民法717条にそう書かれています。
おもしろいのは、条文の書き方です。まず責任を負うのは、その工作物を使っている占有者。ただし占有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」ときは、代わりに所有者が賠償しなければならない、と続きます。つまり「ちゃんと気をつけていました」という言い分が用意されているのは占有者の側だけで、所有者には同じただし書きがありません。
そして、誰も住んでいない空き家では、その家を使っている人=所有者、という形になりがちです。ここが、空き家の台風被害が「所有者の問題」として語られやすい理由なんですね。
もうひとつ大事なのは、問われるのが「瑕疵があったかどうか」であって、「台風が強かったかどうか」ではないという点です。ですから、きちんと手入れされていた家が記録的な暴風でやられた場合と、何年も放りっぱなしで瓦が浮いていた家がやられた場合とでは、同じ台風でも話の見え方が変わってきます。
先ほどの気象庁の表にも、こんな注記が添えられています。「風速が同じであっても、対象となる建物、構造物の状態や風の吹き方によって被害が異なる場合があります」。同じ風が吹いても、壊れる家と壊れない家がある。その差をつくっているのが日頃の状態であり、状態をつくるのが管理だ、というわけです。
ただし、ここでお話ししているのはあくまで一般的な仕組みの紹介です。実際にどう判断されるかは、傷み具合、被害の内容、当事者のやりとりといった個別の事情で大きく変わります。「もしも」が起きたときの見通しは、弁護士などの専門家に確認するのが確実です。
「香川は台風が少ないから」は、半分だけ本当
「うちのあたりは台風が直撃しないから」——これはよく聞く話で、半分は本当です。ただ、記録を見ると油断はできません。
2004年(平成16年)の台風16号では、高松港で観測史上いちばん高い2.46mの潮位が記録され、香川県内で5,800棟を超える住宅が床上まで浸水しました(高松地方気象台の記録より)。一年でもっとも潮位が高くなる大潮の時期に、満潮と台風が重なってしまった年でした。
頻度が低いことは、被害が小さいことを意味しません。むしろ「めったに来ないから」こそ、備えが後回しになりやすいのかもしれません。

空き家で「もしも」が起きやすい4つの場所
では、空き家の何が飛び、何が倒れやすいのか。台風前に目を向けておきたい場所は、だいたい4つに絞られます。
① 屋根・瓦・トタン
いちばん警戒したいのが屋根です。ずれた瓦、浮いた棟、めくれかけたトタン、カーポートの波板、傾いたテレビアンテナ。どれも高いところにあるぶん、飛んだときに遠くまで届いて、人や車に当たれば被害が大きくなります。
とはいえ、確認のために屋根に登るのは危険です。地面から見上げる、双眼鏡やスマホのズームを使うくらいで十分。気になる箇所が見つかったら、そこから先は屋根の専門業者に見てもらいましょう。
② 塀・ブロック塀・門扉
気象庁の表で「ブロック壁で倒壊するものがある」と書かれているのは、平均風速40m/s以上という猛烈な風の欄です。数字だけ見ると「めったにない」と思えますが、前に触れた注記のとおり、同じ風でも構造物の状態によって結果は変わります。
見ておきたいのは、ひび割れ、傾き、鉄筋のさびが浮き出た跡、支えとなる控え壁があるか。塀は道路や隣地との境界に立っているので、倒れたときに通行人や車を巻き込みやすい場所でもあります。
③ 庭木の枝と倒木
庭木も同じ土俵にあります。民法717条には、この仕組みが竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合にも準用されると書かれています。つまり、伸びすぎた枝や根の張っていない木が倒れて隣家を傷めた場合も、同じ考え方で見られることになります。
境界を越えた枝についても、いまの民法には隣の人の側からできる対応が定められています。竹木の所有者に切除を求めても相当の期間内に切ってもらえないとき、所有者やその所在が分からないとき、急迫の事情があるときには、隣地の所有者が自分でその枝を切り取れる、という内容です。裏を返せば、気づかないうちに近所の方に手間をかけている状態は、いちばん避けたいところです。
④ 「置いてあるだけ」のもの
そして、意外と見落とされるのがこれ。プランター、ゴミバケツ、脚立、波板、自転車、剪定した枝の束、古い灯油缶、使わなくなった物置。庭や裏手に置いたままのものです。
気象庁の表では、平均風速20m/s台で「固定されていないプレハブ小屋が移動、転倒する」とされています。物置ごと動く風なら、軽いものはとっくに飛んでいるわけです。しかも屋根や塀と違って、こちらはその日のうちに手を打てるものがほとんど。空き家の敷地でいちばん多く残っているのも、実はこの「片付けきれていないもの」だったりします。
台風シーズン前 空き家の点検チェックリスト
実家まで足を運べるタイミングは限られていますから、一度でひととおり見られるように並べておきます。屋根には登らない、無理はしない。これを前提に、上から下へ見ていくのがおすすめです。
- 屋根まわり — 瓦のずれや浮き、トタンのめくれ、アンテナの傾きを地面から見上げて確認する。気になったら屋根の専門業者へ
- 雨どい・軒先 — 落ち葉や土で詰まっていないか。詰まった雨どいは、雨水があふれて外壁を傷める原因になります
- 塀・門扉 — ひび、傾き、さびの跡、控え壁の有無。門扉やフェンスのがたつきも見ておく
- 庭木 — 枝が隣地や道路にはみ出していないか、枯れ枝や傾いた木がないか。高い枝の作業は無理をせず業者に
- 敷地内の飛びそうなもの — プランター、バケツ、脚立、波板、自転車などを屋内へ入れる。使わないものは、この機会に処分してしまうのがいちばん確実です
- 窓・雨戸・シャッター — 割れやがたつきの確認と、しっかりした戸締まり。雨戸があるなら閉めておく
- 保険の内容 — 火災保険の風災補償や、他人への賠償に備える保険が付いているかを証券で確認しておく。空き家は住まいとして使われていないぶん、加入できる商品や条件が通常の住宅と変わることがありますので、あくまで目安として保険会社に直接確認するのが確実です
- 点検した記録 — 見て回った日付と、屋根・塀・庭木の状態を写真に残しておく。手を入れた履歴が残っていることは、後々いろいろな場面で役に立ちます
- ご近所への一声 — 遠方に住んでいる場合は、連絡が取れる番号を近所の方に伝えておくと、異変に早く気づけます
全部を毎回きっちり、と気負う必要はありません。夏のあいだの見回りで何を見ておくかは夏の空き家管理のポイントの記事でもくわしく触れているので、台風前の点検はその延長線上にあると考えると気が楽です。
それでも被害が出てしまったときは
備えていても、災害は起きます。もし空き家が原因で近隣に被害が出てしまったら、あわてず順番に動くのが結局いちばん早い解決につながります。
まずは安全の確保です。飛びかけた瓦や倒れかけた塀が残っているなら、それ以上の被害を防ぐことが最優先。次に状況を写真に残すこと。被害の場所、飛んだものの位置、日付が分かるように撮っておきます。そのうえで相手の方への連絡と、加入している保険会社への連絡を早めに済ませます。
金額が大きくなりそうなときや、話し合いが難しくなってきたときは、弁護士などの専門家に相談するのが安全です。自治体や弁護士会が無料の法律相談窓口を設けている場合もあるので、まずはそうした窓口の予約状況を調べてみるとよいでしょう。窓口の内容や受付の方法は変わることがあるため、最新の情報は各機関でご確認ください。

まとめ — 台風対策は「片付け」から始められる
今日の話を整理すると、こうなります。
- 瓦がはがれ始める目安は平均風速15m/sあたり、飛散は20m/sから。台風では十分ありうる風です
- 民法717条の工作物責任は、風の強さではなく「設置・保存に瑕疵があったか」を見る仕組み。占有者に用意されたただし書きが、所有者にはありません
- 誰も住んでいない空き家では、所有者がその立場に立つ形になりやすい。ただし結論は個別の事情次第で、判断は専門家に確認するのが確実です
- 危ないのは屋根・塀・庭木・置きっぱなしのもの。屋根と塀は専門業者、庭木と置きっぱなしのものは自分たちで手を打てます
- 放置が続けば税金の話にも波及します。管理されていない空き家として自治体から勧告を受け、それでも状態が直らないままだと、土地の住宅用地特例が外れることがあります(→空き家の固定資産税Q&A)
屋根の修理はすぐには決められないかもしれません。でも、庭に置いたままのプランターを片付けること、伸びた枝を切ること、使わない物置の中身を空にすること。ここは今日からでも手をつけられます。台風対策のいちばん手前にあるのは、実は「片付け」なんです。風で飛ぶものが敷地にひとつも残っていない家は、それだけで「もしも」の芽をかなり摘んでいます。
秋の空の下、涼しくなってきた時間に、実家をひと回り。それだけで十分な備えになります。
このコラムは、高松市で不用品回収・実家じまい・空き家整理をお手伝いしている「まるはち 住まいの整理便」がお届けしました。空き家に残った家財や庭まわりの片付けでお困りのときは、実家じまい・空き家整理のページもご覧ください。
