結論から言うと、空き家から飛んだ瓦が隣家に当たった場合、「台風のせいだから仕方ない」で終わるとは限りません。ふだんの管理が不十分だと、所有者が責任を問われることがあります。
- 屋根瓦がはがれ始めるのは平均風速15m/sあたりから。20m/sを超えると飛散するものがある(気象庁「風の強さと吹き方」)
- 「もしも」が起きやすいのは4か所。屋根・瓦・トタン/塀や門扉/庭木/置いてあるだけのもの
- 台風のあとは、飛んできたものを勝手に捨てない。同じ瓦でも自分で片付けたか工事で外したかでごみの扱いが変わる
いきなり質問です。屋根の瓦がはがれ始めるのは、風速どのくらいからだと思いますか——思ったより低い、と感じるかもしれません。そしてここからが本題です。誰も住んでいない実家の瓦が飛んで、隣の家の車に当たってしまった。この修理代は、誰が払うことになるのでしょうか。
「台風のせいだから仕方ない」で終わるとは限らない
台風は自然災害です。人が起こしたものではないのだから、飛んだ瓦の責任まで問われるのは理不尽——そう感じるのが自然だと思います。
ところが、この手の話で見られるのは風の強さより、家の状態のほうなんです。
種を明かすと、根っこにあるのは民法の「工作物責任」と呼ばれる仕組みです。建物や塀のような土地の工作物について、設置または保存に「瑕疵(かし)」——つくりや手入れに不備があったこと——があり、それによって他人に損害が生じたときは、その工作物の側が賠償の責任を負う。民法717条にそう書かれています。
おもしろいのは、条文の書き方です。まず責任を負うのは、その工作物を使っている占有者。ただし占有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」ときは、代わりに所有者が賠償しなければならない、と続きます。つまり「ちゃんと気をつけていました」という言い分が用意されているのは占有者の側だけで、所有者には同じただし書きがありません。
そして、誰も住んでいない空き家では、その家を使っている人=所有者、という形になりがちです。ここが、空き家の台風被害が「所有者の問題」として語られやすい理由なんですね。
もうひとつ大事なのは、問われるのが「瑕疵があったかどうか」であって、「台風が強かったかどうか」ではないという点です。ですから、きちんと手入れされていた家が記録的な暴風でやられた場合と、何年も放りっぱなしで瓦が浮いていた家がやられた場合とでは、同じ台風でも話の見え方が変わってきます。
先ほどの気象庁の表にも、こんな注記が添えられています。「風速が同じであっても、対象となる建物、構造物の状態や風の吹き方によって被害が異なる場合があります」。同じ風が吹いても、壊れる家と壊れない家がある。その差をつくっているのが日頃の状態であり、状態をつくるのが管理だ、というわけです。
ただし、ここでお話ししているのはあくまで一般的な仕組みの紹介です。実際にどう判断されるかは、傷み具合、被害の内容、当事者のやりとりといった個別の事情で大きく変わります。「もしも」が起きたときの見通しは、弁護士などの専門家に確認するのが確実です。
「香川は台風が少ないから」は、半分だけ本当
「うちのあたりは台風が直撃しないから」——これはよく聞く話で、半分は本当です。ただ、記録を見ると油断はできません。
2004年(平成16年)の台風16号では、高松港で観測史上いちばん高い2.46mの潮位が記録され、香川県内で5,800棟を超える住宅が床上まで浸水しました(高松地方気象台の記録より)。一年でもっとも潮位が高くなる大潮の時期に、満潮と台風が重なってしまった年でした。
頻度が低いことは、被害が小さいことを意味しません。むしろ「めったに来ないから」こそ、備えが後回しになりやすいのかもしれません。

空き家で「もしも」が起きやすい4つの場所
では、空き家の何が飛び、何が倒れやすいのか。台風前に目を向けておきたい場所は、だいたい4つに絞られます。
① 屋根・瓦・トタン
いちばん警戒したいのが屋根です。ずれた瓦、浮いた棟、めくれかけたトタン、カーポートの波板、傾いたテレビアンテナ。どれも高いところにあるぶん、飛んだときに遠くまで届いて、人や車に当たれば被害が大きくなります。
とはいえ、確認のために屋根に登るのは危険です。地面から見上げる、双眼鏡やスマホのズームを使うくらいで十分。気になる箇所が見つかったら、そこから先は屋根の専門業者に見てもらいましょう。
② 塀・ブロック塀・門扉
気象庁の表で「ブロック壁で倒壊するものがある」と書かれているのは、平均風速40m/s以上という猛烈な風の欄です。数字だけ見ると「めったにない」と思えますが、前に触れた注記のとおり、同じ風でも構造物の状態によって結果は変わります。
見ておきたいのは、ひび割れ、傾き、鉄筋のさびが浮き出た跡、支えとなる控え壁があるか。塀は道路や隣地との境界に立っているので、倒れたときに通行人や車を巻き込みやすい場所でもあります。
③ 庭木の枝と倒木
庭木も同じ土俵にあります。民法717条には、この仕組みが竹木の栽植または支持に瑕疵がある場合にも準用されると書かれています。つまり、伸びすぎた枝や根の張っていない木が倒れて隣家を傷めた場合も、同じ考え方で見られることになります。
境界を越えた枝についても、いまの民法には隣の人の側からできる対応が定められています。竹木の所有者に切除を求めても相当の期間内に切ってもらえないとき、所有者やその所在が分からないとき、急迫の事情があるときには、隣地の所有者が自分でその枝を切り取れる、という内容です。裏を返せば、気づかないうちに近所の方に手間をかけている状態は、いちばん避けたいところです。
④ 「置いてあるだけ」のもの
そして、意外と見落とされるのがこれ。プランター、ゴミバケツ、脚立、波板、自転車、剪定した枝の束、古い灯油缶、使わなくなった物置。庭や裏手に置いたままのものです。
気象庁の表では、平均風速20m/s台で「固定されていないプレハブ小屋が移動、転倒する」とされています。物置ごと動く風なら、軽いものはとっくに飛んでいるわけです。しかも屋根や塀と違って、こちらはその日のうちに手を打てるものがほとんど。空き家の敷地でいちばん多く残っているのも、実はこの「片付けきれていないもの」だったりします。
台風シーズン前にやっておきたい 空き家の対策チェックリスト
台風対策というと身構えてしまいますが、空き家でやることは「飛びそうなものを減らす」「壊れかけを見つけておく」のふたつだけです。しかも台風前にできる備えの多くは、道具もお金もほとんどかかりません。
実家まで足を運べるタイミングは限られていますから、一度でひととおり見られるように並べておきます。屋根には登らない、無理はしない。これを前提に、上から下へ見ていくのがおすすめです。
- 屋根まわり — 瓦のずれや浮き、トタンのめくれ、アンテナの傾きを地面から見上げて確認する。気になったら屋根の専門業者へ
- 雨どい・軒先 — 落ち葉や土で詰まっていないか。詰まった雨どいは、雨水があふれて外壁を傷める原因になります
- 塀・門扉 — ひび、傾き、さびの跡、控え壁の有無。門扉やフェンスのがたつきも見ておく
- 庭木 — 枝が隣地や道路にはみ出していないか、枯れ枝や傾いた木がないか。高い枝の作業は無理をせず業者に
- 敷地内の飛びそうなもの — プランター、バケツ、脚立、波板、自転車などを屋内へ入れる。使わないものは、この機会に処分してしまうのがいちばん確実です
- 窓・雨戸・シャッター — 割れやがたつきの確認と、しっかりした戸締まり。雨戸があるなら閉めておく。雨戸のない窓は、内側から養生テープを貼っておくと、割れたときにガラスが飛び散りにくくなります
- 物置・カーポート — 扉の掛け金のゆるみ、波板を留めるフックの外れを見る。空の物置ほど風で動きやすいので、重しを入れておくのも手です
- 郵便受け・玄関まわり — たまった郵便物を抜いておく。あふれた郵便受けは、風で散らかるだけでなく「留守と分かる家」にも見えてしまいます
- 水まわり・ブレーカー — 水道の元栓とブレーカーを落としておく。停電と復旧をくり返す状況でも、電気を止めてあれば心配がひとつ減ります
- 保険の内容 — 火災保険の風災補償や、他人への賠償に備える保険が付いているかを証券で確認しておく。空き家は住まいとして使われていないぶん、加入できる商品や条件が通常の住宅と変わることがありますので、あくまで目安として保険会社に直接確認するのが確実です
- 点検した記録 — 見て回った日付と、屋根・塀・庭木の状態を写真に残しておく。手を入れた履歴が残っていることは、後々いろいろな場面で役に立ちます
- ご近所への一声 — 遠方に住んでいる場合は、連絡が取れる番号を近所の方に伝えておくと、異変に早く気づけます
見に行けないまま台風が来そうなとき
とはいえ、です。実家が高松で自分は県外、という方にとっては「台風前に見に行く」こと自体がいちばん難しいのではないでしょうか。進路が定まるのは数日前。休みを取って帰るのは、現実にはなかなか厳しい話です。それでも、遠くからできる備えはあります。
ひとつは、台風シーズンが来る前に「飛ぶものをゼロにしておく」という考え方です。直前に動けないなら、動ける時期に敷地を空にしておけばいい。プランターも波板も脚立も残っていない家なら、当日に何もできなくても被害の芽はかなり減ります。
もうひとつは、誰かに見てもらえる状態をつくっておくことです。近所の方に連絡先を渡しておくのもそう、定期的に見回ってもらう仕組みを用意しておくのもそう。台風のたびに気を揉むより、「異変があれば連絡が来る」という状態のほうが気持ちも楽です(→空き家見守りのページ)。
全部を毎回きっちり、と気負う必要はありません。夏の見回りで何を見ておくかは夏の空き家管理のポイントでも触れているので、台風前の対策はその延長線上と考えると気が楽です。
それでも被害が出てしまったときは
備えていても、災害は起きます。もし空き家が原因で近隣に被害が出てしまったら、あわてず順番に動くのが結局いちばん早い解決につながります。
まずは安全の確保です。飛びかけた瓦や倒れかけた塀が残っているなら、それ以上の被害を防ぐことが最優先。次に状況を写真に残すこと。被害の場所、飛んだものの位置、日付が分かるように撮っておきます。そのうえで相手の方への連絡と、加入している保険会社への連絡を早めに済ませます。
金額が大きくなりそうなときや、話し合いが難しくなってきたときは、弁護士などの専門家に相談するのが安全です。自治体や弁護士会が無料の法律相談窓口を設けている場合もあるので、まずはそうした窓口の予約状況を調べてみるとよいでしょう。窓口の内容や受付の方法は変わることがあるため、最新の情報は各機関でご確認ください。

台風が過ぎたあとの片付け
台風が去った翌朝。実家の敷地に、見覚えのないトタン板が落ちている——空き家ではめずらしくない光景です。ここからの動き方にも、コツがあります。
いちばん大事なのは、片付ける前に写真を撮ることです。
散らかっているとつい手が出てしまうのですが、いったん立ち止まってスマホを構えてください。何が、どこに、どんな状態で落ちていたか。全体が分かる引きと、寄りの2枚で十分です。保険の請求でも、誰の物が飛んだのかという話でも、あとから効くのはこの1枚。片付けたあとでは、もう撮れません。
他所から飛んできたものは、勝手に捨てない
自分の敷地に落ちていても、他人の物であることは当然あります。近所の物置の波板、どこかの家のトタン、看板の一部。持ち主がいるかもしれないものを、こちらの判断で処分するのは避けたいところです。あとで「あれはうちのだった」となると、話がこじれかねません。
見当がつくなら声をかけてみる。分からなければ、写真を撮って敷地の隅にまとめておく。危ないものだけ先に片付けて、判断が要るものは残しておく——この順番で困ることは、あまりないはずです。
同じ瓦でも、自分で片付けたか業者が外したかで扱いが変わる
ここが、いちばん知られていないところだと思います。
高松市の分別では、瓦は「請負工事以外に限り、1回につき2袋までは破砕ごみ、3袋以上は粗大ごみ」とされています。トタン(波板)も「請負工事以外で2メートル×1メートル以下に限り粗大ごみ」。つまり、自分で拾い集めた分には、ちゃんと出し先があるんです。
引っかかるのは「請負工事以外に限り」という但し書きのほうです。屋根屋さんに修理を頼んで、そのときに外れた瓦——これは請負工事で出たものなので、市では収集してもらえません。同じ瓦が同じ庭に積まれていても、自分で拾ったのか、工事で出たのかで行き先が変わるわけです。工事で出た分は、原則として工事をした業者が持ち帰ります。見積もりの段階で、廃材の引き取りが含まれているかを確かめておくと安心です。
ちなみに鋼板や鉄筋のように、条件つきでも出せない品目もあります。このあたりは市の一覧に品目ごとの但し書きが載っているので、迷ったら現物の名前で引いてみてください。
いっぽう折れた枝や葉にも、出せる範囲があります。剪定ごみは直径5cm以下・束の直径30cm以下・長さ50cm以下にそろえて、請負工事以外なら2束までが燃やせるごみ、3束以上は粗大ごみ。太い幹や根ごと倒れた木は、この範囲を超えます。
壊れた物置や自転車のように、燃やせないもので大きなものは粗大ごみです。高松市では縦・横・高さが1m×50cm×50cm、または重さ10kgを超えるものが目安。処理シールは1枚510円、申し込みは粗大ごみ受付センター(087-834-0366/月〜金9:00-16:00)。自己搬入なら100kgまで1,700円、超過は20kgごと340円が目安です。料金や区分は変わることがありますので、出す前に市の分別区分をご確認ください。ガラスも瓦と同じく、2袋までは破砕ごみ・3袋以上は粗大ごみという扱いです。
大きな被害のあとは、市の案内をまず見る
もうひとつ、災害のあとのごみは平時とルールが変わることがあるという点も頭に入れておきたいところです。被害が広い範囲におよんだときは、市が臨時の受け入れ場所を設けたり、別の受付を案内したりします。
ですから大きな台風のあとは、いつもの分別表どおりに動く前に、市からの案内が出ていないかを一度確認する。それだけで、二度手間をかなり防げます。
そして、こうした時期に増えるのが「今なら安く片付けます」と声をかけてくる業者です。頼む前に許可の有無を確かめる習慣は、持っておいて損がありません(→無許可の不用品回収業者の見分け方)。
量がまとまると、出せるものと出せないものが混ざって、仕分けだけで一日終わることもあります。まとめて運び出す方法もあります(→不用品回収のページ)。
まとめ — 台風対策は「片付け」から始められる
今日の話を整理すると、こうなります。
- 瓦がはがれ始める目安は平均風速15m/sあたり、飛散は20m/sから。台風では十分ありうる風です
- 民法717条の工作物責任は、風の強さではなく「設置・保存に瑕疵があったか」を見る仕組み。占有者に用意されたただし書きが、所有者にはありません
- 誰も住んでいない空き家では、所有者がその立場に立つ形になりやすい。ただし結論は個別の事情次第で、判断は専門家に確認するのが確実です
- 危ないのは屋根・塀・庭木・置きっぱなしのもの。屋根と塀は専門業者、庭木と置きっぱなしのものは自分たちで手を打てます
- 放置が続けば税金の話にも波及します。管理されていない空き家として自治体から勧告を受け、それでも状態が直らないままだと、土地の住宅用地特例が外れることがあります(→空き家の固定資産税Q&A)
屋根の修理はすぐには決められないかもしれません。でも、庭に置いたままのプランターを片付けること、伸びた枝を切ること、使わない物置の中身を空にすること。ここは今日からでも手をつけられます。台風対策のいちばん手前にあるのは、実は「片付け」なんです。風で飛ぶものが敷地にひとつも残っていない家は、それだけで「もしも」の芽をかなり摘んでいます。
秋の空の下、涼しくなってきた時間に、実家をひと回り。それだけで十分な備えになります。
このコラムは、高松市で不用品回収・実家じまい・空き家整理をお手伝いしている「まるはち 住まいの整理便」がお届けしました。空き家に残った家財や庭まわりの片付けでお困りのときは、実家じまい・空き家整理のページもご覧ください。
